正月SSその参。
また少し長くなっちゃいましたよ。
その弐はこちら→ http://fortysix046.blog.shinobi.jp/Entry/2600/
「牧島が突然やってきて『高城についてきてほしい』とか言うもんだから、ミスターフレンドシップで通っている俺としては断るわけにはいかなかった」
アキが表情をぴくりとも動かさずに嘯いた。エイジとしてはつっこみたいところがないでもなかったが、問題はそこではないので控えておいた。
カイリとエイジが初詣を済ませてからアキに状況説明を求めたところ、どうやら元凶は、ナツキから微妙に離れたところでげっそりしている牧島レンであるらしかった。
もちろん俺も最初は断ったんだけどな、とアキは付け加えた。
「俺のことを毛嫌いしている時雨ナツキのことだ。いや、相手が俺でなくても怒るんじゃないか? 男と二人で初詣と聞いていたはずが、いざ待ち合わせ場所に着けば何か余計なのがいる、とあれば。あれで時雨ナツキも思春期の女子だ」
「あれでって何よ」
「フン……」
元々は、二人で初詣に行こうとレンがナツキに持ちかけたらしい。
レンもエイジと同じく甘酸っぱい片想いの身だ。想い人は無論、ナツキである。 もっとも、エイジと違い奥手ではないレンは日頃からナツキにアグレッシブに言い寄りまくりで、それをはねのけるナツキの鉄壁ぶりや、何度断られようとめげないレンの前向きな姿は、学年はおろか学内でも有名だ。
今回はただの初詣ということで、ナツキも好意的に判断し、OKを出したらしかった。
だが、レンもまた思春期の男子だった。当日、約束の時間の直前になって不安が爆発したらしい。
彼もまたエイジと同じく、ナツキと二人きりなどという状況になったことがなかったのだ。
いつものように勢いだけではいけない、いつものように周りで騒いで盛り上げてくれるギャラリーもいない、となると……間がもたない!と、レンはそう判断したらしく、人などいくらでもいるだろうに、何故かよりにもよってナツキが(一方的に)嫌っているアキに助けを求めてしまったのだ。
何故か、とはいうものの、そこにも一応の理由があった。レンは日頃から、アキに恋愛相談をしているらしい。エイジからしてみれば、相談相手としてはもっとも避けて通りたい人物なのだが、意外とそういう方面に強かったりするのだろうか。この人嫌いが?
……アキが相談相手としてふさわしいかどうかはさておき、そのため、レンとしてはこれほど心強い味方はいなかったというわけだ。しかも驚くべきことに、どういうわけかアキとナツキの仲についてはまったく知らないどころか、仲がいいと思い込んでしまっているらしかった。
これについてはエイジもわからないでもなかった。アキとナツキの仲はたしかによくないのだが、その軽口や罵詈雑言の応酬には、どこか夫婦漫才のようなコメディめいた雰囲気を感じることがある。
だが、あれで仲いいと思ってしまうのか。まじか。エイジは開いた口が塞がらなかった。
結局、アキもレンを説得するのを諦め、ついて行ってしまったらしい。
そして、待ち合わせ場所に着くなりアキの姿を視認したナツキは、その怒りが炎となって現界せんばかりの怒り様だったらしい。そりゃそうだ。
それでもアキが懸命になだめ(これが逆効果だったのではとエイジは思う)、せっかく出向いてきたのだから、ということでなんとか初詣に来はしたものの三人は終始無言で、アキですら頭を抱えたくなるほどだったらしい。
「レン」
エイジは悪友の肩をぽんと叩き、
「お前が悪いよ……諦めよう」
と、とどめを刺した。
それから後は、怒りのナツキをエイジとカイリの懸命の二人がかりで鎮めたり、失意のレンを自宅まで送り届けたりと、ハッピーなニューイヤーとは思えないイベントばかりをこなす羽目になった。
結局ナツキは、カイリと甘いものを食べに二人で街に繰り出してしまい、残るはエイジとアキだけになってしまった。
神社の階段で「二人きりの時間がもう半分も……」などと考えたものだが、まさかあれで終わりとは思ってもみなかった。もっと沢山カイリと話しておくべきだったと、エイジは後悔に沈んだ。
そして、ひとつ思い出した。
「……あ、そういえば」
「ん?」
「アキ、今日はありがとな。お前の粋な計らいのおかげで、短い時間だったけど、カイリちゃんと二人きりになれた」
そう、アキに礼を言わなければならなかった。
カイリが初詣に誘いにやってくるのを見越して、エイジを自宅まで来るように仕向けたのは、他でもないアキだ。
ここで礼を言わないのでは、男が廃るというものだろう。
だが。
「……は? 何を言ってるんだお前は」
アキは眉根をひそめ、本気で何を言っているのかわからないという顔をした。
「えっ、だってあれ、お前がそうなるように仕組んだんじゃ、ないの? カイリちゃんが自分の家に来るってわかってて、俺にメールして……」
急ぎ携帯電話をポケットから抜き出し、メールを見せた。
「ん……? ああ。あー……」
アキは何か思い出したように手をぽんと叩いた。
「そういえば送ったな」
「だ、だろ? おかげでカイリちゃんと出くわし……」
「送信先を間違えていたみたいだ。悪いな」
「えっ……」
エイジは目が点になった。
「ちょっと前からカイリに頼まれていた。お年玉をやるから元旦の朝に起こしてくれと。……するとあいつ、自分で起きたのか……」
「えっ……? ちょっ……えっ?」
エイジはアキの言っている意味が理解できず、目を白黒させた。
その両手は、所在なげにふわふわと虚空をさまよっている。
「要領の悪いやつだな。お前は春海エイジ、あいつは冬峰カイリ。アドレス帳ではすぐそこに並んでる……わかるな? 俺も寝ぼけていて、送信先をひとつ上のお前にしたまま、カイリへの目覚ましメールを送ってしまった」
自分のミスをわざわざ説明させられる面倒に投げ槍になりながら、それでも頭の中が真っ白になってしまっているエイジにもわかるように、アキは順を追って話した。
「俺に目覚ましメールを申しつけたことはおろか、お年玉をやると言ったことも忘れたカイリが、自分で起きて、例年通り我が家にやってきた」
「うん」
「そこへ、エイジ。お前が、俺の寝ぼけメールを見てのこのこやってきた」
「うん」
「聞いているのか死んでいるのかはっきりしろエイジ」
「うん」
「チッ……。そして二人は出会った。それだけだ。別に礼を言うのは勝手だが、俺じゃない。どうして俺が、お前の淡い初恋なんぞのために、そこまで回りくどい策を講じなきゃならん」
言われてみればその通りだった。
高城アキとはこういうやつだった。
何故、彼のそんなキャラクターを丸きり考慮せず、彼の計らいだと思い込んでいたのか。
おそらく、浮かれていたのだろう。元旦早々、想い人と二人きりだ。
エイジは自らを恥じた。顔が赤く染まったのがわかった。
「まったく、正月早々色ボケとはな。めでたいやつだ」
アキがペッと唾を吐く真似をした。
「うううるせぇ! お前と違ってピュアなんだよ! わかる!? ピュ!ア!!」
「お前がピュアだと! 笑わせる。一体どこで習った? 覚えたての言葉を使えた気分はどうだ?」
……などと互いに軽口を吐き合いながら、新年早々アキに振り回され、今年もろくな年にならなさそうだ、とエイジは内心溜め息をついた。
まったく、正月というのについてない。
だが、それでも。
二人で歩いたあの道は忘れられそうにないな……と、少し頬が緩んだ。
「こ、こいつ、突然笑ったぞ!気持ち悪い!」
「っっさいわ!」
また少し長くなっちゃいましたよ。
その弐はこちら→ http://fortysix046.blog.shinobi.jp/Entry/2600/
「牧島が突然やってきて『高城についてきてほしい』とか言うもんだから、ミスターフレンドシップで通っている俺としては断るわけにはいかなかった」
アキが表情をぴくりとも動かさずに嘯いた。エイジとしてはつっこみたいところがないでもなかったが、問題はそこではないので控えておいた。
カイリとエイジが初詣を済ませてからアキに状況説明を求めたところ、どうやら元凶は、ナツキから微妙に離れたところでげっそりしている牧島レンであるらしかった。
もちろん俺も最初は断ったんだけどな、とアキは付け加えた。
「俺のことを毛嫌いしている時雨ナツキのことだ。いや、相手が俺でなくても怒るんじゃないか? 男と二人で初詣と聞いていたはずが、いざ待ち合わせ場所に着けば何か余計なのがいる、とあれば。あれで時雨ナツキも思春期の女子だ」
「あれでって何よ」
「フン……」
元々は、二人で初詣に行こうとレンがナツキに持ちかけたらしい。
レンもエイジと同じく甘酸っぱい片想いの身だ。想い人は無論、ナツキである。 もっとも、エイジと違い奥手ではないレンは日頃からナツキにアグレッシブに言い寄りまくりで、それをはねのけるナツキの鉄壁ぶりや、何度断られようとめげないレンの前向きな姿は、学年はおろか学内でも有名だ。
今回はただの初詣ということで、ナツキも好意的に判断し、OKを出したらしかった。
だが、レンもまた思春期の男子だった。当日、約束の時間の直前になって不安が爆発したらしい。
彼もまたエイジと同じく、ナツキと二人きりなどという状況になったことがなかったのだ。
いつものように勢いだけではいけない、いつものように周りで騒いで盛り上げてくれるギャラリーもいない、となると……間がもたない!と、レンはそう判断したらしく、人などいくらでもいるだろうに、何故かよりにもよってナツキが(一方的に)嫌っているアキに助けを求めてしまったのだ。
何故か、とはいうものの、そこにも一応の理由があった。レンは日頃から、アキに恋愛相談をしているらしい。エイジからしてみれば、相談相手としてはもっとも避けて通りたい人物なのだが、意外とそういう方面に強かったりするのだろうか。この人嫌いが?
……アキが相談相手としてふさわしいかどうかはさておき、そのため、レンとしてはこれほど心強い味方はいなかったというわけだ。しかも驚くべきことに、どういうわけかアキとナツキの仲についてはまったく知らないどころか、仲がいいと思い込んでしまっているらしかった。
これについてはエイジもわからないでもなかった。アキとナツキの仲はたしかによくないのだが、その軽口や罵詈雑言の応酬には、どこか夫婦漫才のようなコメディめいた雰囲気を感じることがある。
だが、あれで仲いいと思ってしまうのか。まじか。エイジは開いた口が塞がらなかった。
結局、アキもレンを説得するのを諦め、ついて行ってしまったらしい。
そして、待ち合わせ場所に着くなりアキの姿を視認したナツキは、その怒りが炎となって現界せんばかりの怒り様だったらしい。そりゃそうだ。
それでもアキが懸命になだめ(これが逆効果だったのではとエイジは思う)、せっかく出向いてきたのだから、ということでなんとか初詣に来はしたものの三人は終始無言で、アキですら頭を抱えたくなるほどだったらしい。
「レン」
エイジは悪友の肩をぽんと叩き、
「お前が悪いよ……諦めよう」
と、とどめを刺した。
それから後は、怒りのナツキをエイジとカイリの懸命の二人がかりで鎮めたり、失意のレンを自宅まで送り届けたりと、ハッピーなニューイヤーとは思えないイベントばかりをこなす羽目になった。
結局ナツキは、カイリと甘いものを食べに二人で街に繰り出してしまい、残るはエイジとアキだけになってしまった。
神社の階段で「二人きりの時間がもう半分も……」などと考えたものだが、まさかあれで終わりとは思ってもみなかった。もっと沢山カイリと話しておくべきだったと、エイジは後悔に沈んだ。
そして、ひとつ思い出した。
「……あ、そういえば」
「ん?」
「アキ、今日はありがとな。お前の粋な計らいのおかげで、短い時間だったけど、カイリちゃんと二人きりになれた」
そう、アキに礼を言わなければならなかった。
カイリが初詣に誘いにやってくるのを見越して、エイジを自宅まで来るように仕向けたのは、他でもないアキだ。
ここで礼を言わないのでは、男が廃るというものだろう。
だが。
「……は? 何を言ってるんだお前は」
アキは眉根をひそめ、本気で何を言っているのかわからないという顔をした。
「えっ、だってあれ、お前がそうなるように仕組んだんじゃ、ないの? カイリちゃんが自分の家に来るってわかってて、俺にメールして……」
急ぎ携帯電話をポケットから抜き出し、メールを見せた。
「ん……? ああ。あー……」
アキは何か思い出したように手をぽんと叩いた。
「そういえば送ったな」
「だ、だろ? おかげでカイリちゃんと出くわし……」
「送信先を間違えていたみたいだ。悪いな」
「えっ……」
エイジは目が点になった。
「ちょっと前からカイリに頼まれていた。お年玉をやるから元旦の朝に起こしてくれと。……するとあいつ、自分で起きたのか……」
「えっ……? ちょっ……えっ?」
エイジはアキの言っている意味が理解できず、目を白黒させた。
その両手は、所在なげにふわふわと虚空をさまよっている。
「要領の悪いやつだな。お前は春海エイジ、あいつは冬峰カイリ。アドレス帳ではすぐそこに並んでる……わかるな? 俺も寝ぼけていて、送信先をひとつ上のお前にしたまま、カイリへの目覚ましメールを送ってしまった」
自分のミスをわざわざ説明させられる面倒に投げ槍になりながら、それでも頭の中が真っ白になってしまっているエイジにもわかるように、アキは順を追って話した。
「俺に目覚ましメールを申しつけたことはおろか、お年玉をやると言ったことも忘れたカイリが、自分で起きて、例年通り我が家にやってきた」
「うん」
「そこへ、エイジ。お前が、俺の寝ぼけメールを見てのこのこやってきた」
「うん」
「聞いているのか死んでいるのかはっきりしろエイジ」
「うん」
「チッ……。そして二人は出会った。それだけだ。別に礼を言うのは勝手だが、俺じゃない。どうして俺が、お前の淡い初恋なんぞのために、そこまで回りくどい策を講じなきゃならん」
言われてみればその通りだった。
高城アキとはこういうやつだった。
何故、彼のそんなキャラクターを丸きり考慮せず、彼の計らいだと思い込んでいたのか。
おそらく、浮かれていたのだろう。元旦早々、想い人と二人きりだ。
エイジは自らを恥じた。顔が赤く染まったのがわかった。
「まったく、正月早々色ボケとはな。めでたいやつだ」
アキがペッと唾を吐く真似をした。
「うううるせぇ! お前と違ってピュアなんだよ! わかる!? ピュ!ア!!」
「お前がピュアだと! 笑わせる。一体どこで習った? 覚えたての言葉を使えた気分はどうだ?」
……などと互いに軽口を吐き合いながら、新年早々アキに振り回され、今年もろくな年にならなさそうだ、とエイジは内心溜め息をついた。
まったく、正月というのについてない。
だが、それでも。
二人で歩いたあの道は忘れられそうにないな……と、少し頬が緩んだ。
「こ、こいつ、突然笑ったぞ!気持ち悪い!」
「っっさいわ!」
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HN:
シロタカ
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男性
趣味:
昼寝、音楽、散歩、
絵、模型、写真、、、。
絵、模型、写真、、、。
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苦手なもの:においが強いもの
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