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冬が来て春が来て、夏の後秋がくる  / つづれ織り ,CM:2 ,TB:

短編小説転載の巻。
ド素人によるものなので、読む方はその辺を覚悟して臨んでください!



 



『パノラマ』



その混沌とした威圧感に、二人はただ圧倒されていた。
しかし、同時に魅了されてもいた。

空き缶、携帯電話、メガネ、スプーン、トランペット、テールランプ、フライパン、自転車、帆布。
扇風機にぬいぐるみ、ほうきに椅子にアコースティックギターなどなど。

よく言えば多種多様、悪く言えば雑多なモチーフを無造作に組み合わせて完成された奇々怪々なオブジェの数々が、やはり何の規則性もなしに顔を並べていた。

『九重たつお展~不器用に行きた軌跡の果て~』と大仰に銘打たれた個展を見に、アキとカイリは近場の美術館に足を運んでいた。

今はほぼ全ての作品を見終わり、あとは順路を出口へ向けて歩くだけだった。
夕方の閑散とした美術館は、九重の作品たちが放つ重圧と相まって、より荘厳さを増していた。

「すごいねこういうの、エネルギッシュだ!わたしもやってみたい!」
と、拳を握りながら息まいているカイリをよそに、アキは一点を真剣に見つめていた。



西日の差し込む大きな窓の前だ。
そこに腰ほどの高さの直方体の台が置かれ、その上に作品がポツリと置かれている。

ポツリと……そう、その作品には、他の作品たちにのようなエネルギーが感じられなかった。
それどころかどこか儚く、寂しげにすら見えるのは、窓から差す夕日のせいだけではないだろう。



箱庭、だった。
『春を愛する人』と刻まれた鉄のプレートが、庭の外で鈍く光っている。

30センチ四方ほどの枠の上に小さな公園がこしらえられている。
公園といっても滑り台やブランコがあるわけではなく、草花と小さなベンチがあるだけ。ベンチには、緻密に造形された一人の女性が腰をおろしている。

美術館の外は北風が頬を刺し、冬も間近といった感じだが、この公園の中では桜が咲き、新緑が踊り、もみじが染まり、粉雪が舞っていた。
だが、その四季折々のところどころから覗くのは、大地や砂ではなく、何故か畳だ。
しかしその畳ですら、違和感を生むどころか、繊細な雰囲気と妙にマッチして見える。

『春を愛する人』の緻密さは、ここまでで見た作品群とは明かに印象を異にしていた。
衝動をそのまま形にした様なこれまでのものと、まるで物語の一説のような箱庭。

アキは箱庭に魅入られたようにその場に立ち尽くしていた。

「なんだか不思議な作品だね」
カイリも思わず呟いた。
端正な顔には、哀愁ともとれる微妙な表情が浮かんでいた。



「その作品は、私と妻の共同作品でね」

静かな館内に、しゃがれた声が大きく響いた。

二人が振り返ると、通路の先には一人の老人がいた。
両の手を後ろ手に組み、背筋を伸ばしてこちらを見ている彼はおそらく……

「九重たつおさん、ですか」
アキが口を開いた。

「そう。君達は芸術でも学んでいるのかな?随分とじっくり作品を見ていたようだけど」
「いえ、まったく。どれも生きてるようなものばかりだったので、つい」
「嬉しいね。どれも私の子供のようなものだからね。ありがとう」
九重は顔をくしゃっとゆがめて笑った。子供のような笑顔だった。
笑顔はそのままに、九重は優しい眼差しで箱庭を見つめた。
彼に倣って箱庭を振り返ったアキは、その風景に思いを馳せるかのように黙り込んだ。



「それはね、妻の愛した風景そのものなんだ。」
と、老いた男はおもむろに切り出した。



僕の通っていた中学校の近くの、小さな何もない公園。
僕が彼女と初めて会ったのもここだったんだ。
会うまでも度々みかけていたんだけどね。
彼女はいつもそのベンチに座って、ある時は空を、ある時は樹を、ある時は地面を見つめていた。

そんな姿を何度も見ているうちに、僕は、自分が彼女に恋している事に気付いた。
学校の行き帰りに彼女の姿を見るのが楽しみだった。

我慢できなくなった僕は彼女に声をかけ、仲良くなった。
彼女が近所の畳屋の一人娘ということはすぐに知ったよ。
病弱で学校にもなかなか通えないってこともね。
僕は、そんな彼女を守りたいと強く願ったよ。

中学校を卒業して、職を得て――といっても彼女の家に弟子入りしたんだけどね――から何年も経って、女性一人くらいは養える程度に成長した僕は、彼女にプロポーズをした。

それからの日々はとても幸せだった。僕が居て、彼女が居る、それだけで幸せだった。
ここで花見をしたり、日陰で涼んだり、月見をしたり、雪だるまを作ったりね。
何もせずにボーッとしたりもした。



けど、結婚してから10年ほど経ったある日、彼女は逝ってしまった。
持病が悪化してしまってね。



それからの僕は君達の知る通り。
こうしてなんだかよく分からない子たちを生み続け、だけど不思議と、それに生きる力をもらっていた。

そんなよく分からない子たちを生み出す傍ら、彼女の生の証を、記憶を失ってしまわぬよう、この“公園”の制作を続けた。
二人が一緒だった頃に最後に作った畳を土台にね。



そうしてやっと完成したこの公園を、僕の最後の作品にしようと思ってね――。



不意に、はめごろしの大窓をも揺らす強い風が吹いた。
風が何度も厚いガラスを叩き、ついに亀裂を生んだ。

「――っ! カイリ!」
叫んだアキはカイリを胸に抱え、箱庭が置かれた台に背を預けうずくまった。

直後、鼓膜をつんざく鋭い音を挙げてガラスが割れた。



ガラスの砕ける音と風が止んだ。
アキはカイリを雑な動作で突き放し、立ち上がった。
九重の姿はいつの間にか見えなくなっている。

頭を振って細かいガラス片を払ってから窓を見ると、窓のガラスは一片残さず床に落ちていた。

見上げた視線を下に移動し、箱庭を見た。……無事だ。
ガラスのかけらを取り除いてやれば何も問題はないだろう。



「……ん?」

ふと、公園のベンチが目に止まった。
丁寧に作られたベンチには、緻密に造形された一組の男女が腰をおろしていた。
さっき見た時からこうだったのか……思い出せない。記憶がわずかに混濁していた。
ぐったりとうなだれているカイリを見たアキは、どうしたものかと首を捻った。



間もなく美術館員がやってきて二人は保護され、特に何事も無く美術館を後にした。

外から見た美術館は、西側の窓が全て割れているという無残な状態だった。



翌日のテレビニュースで、現代美術家九重たつおが死去したことが報じられていた。
自宅のアトリエで、作業机に座ったまま静かに亡くなっていたそうだった。
その亡骸の表情は、生きて見えるほどやさしく微笑んでいたとのことだった。



それから数日後、高城家に一抱えほどもある大きな箱が届いた。
いささか丁寧にすぎる梱包を解いていくと、先日の箱庭が顔を出した。

「えっ」
おどろきながら箱庭を箱から出すと、小さな紙切れがはらりと床に落ちた。

「ん。なんだこれは」

手紙だった。
『高城アキ君。唯一この作品の前で足を止めてくれた君に、この庭を託そうと思います。迷惑だったら申し訳ないけど、もらってくれると嬉しい。九重たつお』
と、簡潔に記されていた。

宛名がある。
宅配が届くということは、住所も。
あの時自分は、住所はもちろん、名乗ってすらいないはずなのに、不思議なことがあるもんだと思った。

思えば不思議な事だらけだった。
遠く離れた自宅にいたらしい九重が自分達の前に現れたこと。
あの謎の突風に、増えたベンチの人形。

まったくわけがわからない。

「あなたは一体何をしたかったんだ。結構怖かったぞ」

誰にともなく呟きながら覗いた箱庭の中で、寄り添う二つの人形が笑った気がした。



*****

はい。
お題「公園×畳」でした。

ムチャクチャなテーマゆえにムチャクチャな中身になってると思われる……けどこの感じ、俺は嫌いじゃないぜ!!

箱庭の描写はなんかものすごそうだけど、こういうのは文だからこそ!って感じだよね。
実際に作るのなんて到底ムリだし、絵でもきっと描けないw

あと、ところどころに歌詞やら曲のタイトルやらをネタにもってくるのが意味なく楽しいです。

全部読んでくれた方にありがとうの気持ちで一杯です!!

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無題
ヤマグチ 2009.11.13 (Fri) 16:55:43 EDIT
テーマに畳が入ってるってことはなんとなく感じ取ったぜ!


うむ
シロタカ 2009.11.16 (Mon) 09:42:18 EDIT
あれだけ無理矢理ねじ込めばね!
具体的すぎるんだよ!
色々想像できる公園ならまだしも、畳ってなんだよ!みたいなw



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男性
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