アキとカイリのbotができたことにより(セリフの引用をする関係から)、転載し忘れてたテーマ短編をアップする機会がやっとできたので、この機にやっちまっておこうと思います。
いつも通り初心者丸出しの稚拙な文章につき、覚悟の上お読みください。
書いたのは2009年11月20日です!笑
『君に幸あれ』
音もなく、吸い込まれるように。
丁寧に切り分けられた白桃に銀色の三叉が突き立てられる。
持ち上げられた果実は、フォークの持ち主とは別の口へと移動する。
「あー――……んっ!」
カイリが桃を口で捕まえようとした瞬間、フォークが翻り、カイリの眼前から桃が消失する。
「んー。うまい」
桃を頬張ったアキが、カイリに目もくれずにのたまう。
「ぬ……ぬう、馬鹿アキ……っ!」
カイリは、怒りに燃える瞳でアキを睨みながら呪詛を吐き出す。
その手が握るのはボールペンだ。
そして机には履歴書が鎮座していた。
「ごめんねカイリ。先生が『カイリには履歴書が終わるまであげちゃダメ』って言って聞かないの」
アキの前に座ったナツキは、そう言いながらも次々に桃を口へ運んでいた。
帰りのホームルームが終わって、もう結構な時間が経過した。
外を見れば、アップを終えた運動部が模擬試合などに打ち込んでいる。
アキ、カイリ、ナツキの3人は、教師の居ない美術室に静かに陣取っていた。
何故、放課後の教室――それも美術室で桃と履歴書なのか。
理由は簡単だ。が、語るのは面倒だ。
放課後、今日締めの練習用履歴書を提出していなかったカイリが、完成し次第すぐに提出できるようにと美術室を選び、アキとナツキを人質にとって立て籠った。
それを見た担任が、災難な二人のためにと、桃を切り分けて差し出した。
その際、カイリは履歴書を書き上げるまで食べてはいけないと二人に伝えた。
3人の担任は美術教師であり、今食べられている桃は、本日午前の授業でデッサンのモチーフとして世話になったもの……というわけだ。
「早く書かないとなくなるぞ」
言いながらアキは、桃を二つフォークで突き刺して頬張った。
手加減をする気はさらさらないらしい。
「が……がんばる」
唇を噛んだカイリは履歴書とのにらめっこを再開した。
が、桃はちょっとやそっとでなくなる量ではない。
なにしろ、7つの桃を積み重ねたものをモチーフにデッサンをし、その全てを「腐らすのは勿体無い」と皮を剥き、切り分けて並べたのだ。
皿にはまだ、こんもりと桃が山を築いたままだった。
―・―
しばらくして桃を食べるのに飽きたのか、アキが教師の備品で遊び始めた。
過去の生徒の作品や、珍しい画材などを手当たり次第手に取っては眺めている。
他人には無関心だがモノに対する好奇心は旺盛、というのが彼の困ったさがだ。
そこへ、
「ああーっ!!」
不意に轟くカイリの叫び声。
驚いたアキは、これまたいつだったかモチーフに使ったビンを落としそうになったが、どうにか持ちこたえた。
「『中学校卒業』のところにまた『中学校入学』って書いちゃった……」
ため息をついたカイリは、新しい履歴書を用意し、またもにらめっこを開始した。
―・―
またしばらく経ったのち、担任が教員会議から戻ってきた。
「なぁんだ、まだ終わってないのかぁ冬峰ェ。先生帰っちゃうぞー」
「ていうか!先生も食べてくださいよ。なくならないでしょう」
ナツキが教師に苦情を投げる。
「なくしちゃダメェーッ!」
瞬時に、水泳の息継ぎのように素早く顔を上げたカイリが叫び、すぐさま黙って履歴書に向き直った。
「ん。食べるよ。掃除が終わったら」
応答しながら黒板消しを二つ手に取り、窓辺で黒板消しを叩きだした。が、
「ああああーっ!」
再びカイリの咆哮。
「あ」
続いて教師の間抜けな声。
「冬峰ェ。お前が叫ぶから先生、黒板消しを落としてしまったぞ……!」
「け、検定の『級』を『段』って書いちゃったあああっ!」
教師の文句を掻き消す絶叫。
一度はガクリと肩を落とすが、また次なる履歴書をビニール袋から取り出し、今日だけで大分インクの減ったボールペンを手にした。
―・―
「実は、野菜や肉よりもフルーツを食べ過ぎる方が太りやすいらしいな」
一人黙々と桃を片付けていたナツキに、アキが呟いた。
「おだまりっ。ならアキも食べたら?なくなんないでしょ」
「なくしたいのか」
ナツキは一瞬「しまった」という顔をしたが、また桃にフォークを刺しては口へ運ぶ作業を再開する。
あれだけあった桃は、いつの間にか残り少なくなっていた。
そこへ、
「できた!履歴書できたよ!先生、できましたっ!」
ガタン!と、音を上げ勢いよく椅子を倒して立ち上がるカイリ。
「ほう。どれどれ、渡してみ」
「はい!先生、もうわたしも桃食べてもいいですよね!」
「だぁめ。ちゃんと合格してからね」
「ぐぬぅ……」
カイリの乾いた呻き声が、オレンジ色に染まる美術室に響いた。
教師が履歴書を確認している間も、桃は着実にその数を減らして行った。
履歴書(練習用)を手に黙り込んだ教師を見て不安になったカイリは、痺れを切らして口火を切った。
「せ、先生……?」
「ん。よし」
「はいっ!桃食べても……じゃない、合格ですか?」
「うん。もう食べてもいいよ」
そう言った教師は、顔を硬直させるようにして微笑んだ。
「やったぁ!」
飛び上がり、即座に桃の乗った皿に走り寄る。
が、
「あと二つだけ……」
そう。アキとナツキが本気で飽きるまで食べた結果、桃は残り二切れになってしまっていた。
「あ……あとは食べてもいいよカイリ」
ナツキがひきつった笑顔で言った。
残り少ないにもほどがあるが、事を成し遂げた今のカイリにとっては、食べられるだけでありがたい。
「うん、食べるよ!ありがとう!」
目尻に涙を浮かべながらフォークを取り、丁重に桃の残り二つ切れを咀嚼した。
「じゃ、俺は帰る」
「私も帰るね」
と、アキにナツキ。
二人とも、桃が効いているのだろう。
見るからに重たそうに腰を上げ、カバンを方に掛ける。
「わたしも帰るー!」
カバンを手に跳ねるように教室を出、二人に追いつくカイリ。
だが、その肩をアキがつつく。
アキへと振り向いたカイリの目をじっと見、そして後ろ――美術室を振り返り、顎で中を指す。
教室の中では、教師が履歴書をヒラヒラと振り、カイリを手招きしていた。
「『~に挑戦し』の『挑』が『桃』に、『私も』が『私もも』になっているよ?冬峰ェ」
微笑んだ教師の顔を見たカイリは、力なくその場にへたりこんだ。
長く伸びたその影が、彼女の哀愁をより一層際立たせて見えた。
*****
「桃×ボールペン」でお送りしました、物語コミュ用短編第伍弾!
履歴書ってクソ面倒臭いよね。
今まさにその渦中にある私だからこそ書けた話ではないでしょうか!
ちなみにこの美術教師と生徒の関係は、高校時代の俺と美術教師のそれをモデルにしてます。
担任ではなかったけど、よく昼休みや放課後に美術室に遊びに行ったもんです。
ああ懐かしい!
青春の思い出に浸りながら書いた日常くせぇ短編でしたが、いかがでしょうか。
お口に合いましたでしょうか。
もし合わなかったのなら、、、
足りない長さは俺が補う!!!
いつも通り初心者丸出しの稚拙な文章につき、覚悟の上お読みください。
書いたのは2009年11月20日です!笑
『君に幸あれ』
音もなく、吸い込まれるように。
丁寧に切り分けられた白桃に銀色の三叉が突き立てられる。
持ち上げられた果実は、フォークの持ち主とは別の口へと移動する。
「あー――……んっ!」
カイリが桃を口で捕まえようとした瞬間、フォークが翻り、カイリの眼前から桃が消失する。
「んー。うまい」
桃を頬張ったアキが、カイリに目もくれずにのたまう。
「ぬ……ぬう、馬鹿アキ……っ!」
カイリは、怒りに燃える瞳でアキを睨みながら呪詛を吐き出す。
その手が握るのはボールペンだ。
そして机には履歴書が鎮座していた。
「ごめんねカイリ。先生が『カイリには履歴書が終わるまであげちゃダメ』って言って聞かないの」
アキの前に座ったナツキは、そう言いながらも次々に桃を口へ運んでいた。
帰りのホームルームが終わって、もう結構な時間が経過した。
外を見れば、アップを終えた運動部が模擬試合などに打ち込んでいる。
アキ、カイリ、ナツキの3人は、教師の居ない美術室に静かに陣取っていた。
何故、放課後の教室――それも美術室で桃と履歴書なのか。
理由は簡単だ。が、語るのは面倒だ。
放課後、今日締めの練習用履歴書を提出していなかったカイリが、完成し次第すぐに提出できるようにと美術室を選び、アキとナツキを人質にとって立て籠った。
それを見た担任が、災難な二人のためにと、桃を切り分けて差し出した。
その際、カイリは履歴書を書き上げるまで食べてはいけないと二人に伝えた。
3人の担任は美術教師であり、今食べられている桃は、本日午前の授業でデッサンのモチーフとして世話になったもの……というわけだ。
「早く書かないとなくなるぞ」
言いながらアキは、桃を二つフォークで突き刺して頬張った。
手加減をする気はさらさらないらしい。
「が……がんばる」
唇を噛んだカイリは履歴書とのにらめっこを再開した。
が、桃はちょっとやそっとでなくなる量ではない。
なにしろ、7つの桃を積み重ねたものをモチーフにデッサンをし、その全てを「腐らすのは勿体無い」と皮を剥き、切り分けて並べたのだ。
皿にはまだ、こんもりと桃が山を築いたままだった。
―・―
しばらくして桃を食べるのに飽きたのか、アキが教師の備品で遊び始めた。
過去の生徒の作品や、珍しい画材などを手当たり次第手に取っては眺めている。
他人には無関心だがモノに対する好奇心は旺盛、というのが彼の困ったさがだ。
そこへ、
「ああーっ!!」
不意に轟くカイリの叫び声。
驚いたアキは、これまたいつだったかモチーフに使ったビンを落としそうになったが、どうにか持ちこたえた。
「『中学校卒業』のところにまた『中学校入学』って書いちゃった……」
ため息をついたカイリは、新しい履歴書を用意し、またもにらめっこを開始した。
―・―
またしばらく経ったのち、担任が教員会議から戻ってきた。
「なぁんだ、まだ終わってないのかぁ冬峰ェ。先生帰っちゃうぞー」
「ていうか!先生も食べてくださいよ。なくならないでしょう」
ナツキが教師に苦情を投げる。
「なくしちゃダメェーッ!」
瞬時に、水泳の息継ぎのように素早く顔を上げたカイリが叫び、すぐさま黙って履歴書に向き直った。
「ん。食べるよ。掃除が終わったら」
応答しながら黒板消しを二つ手に取り、窓辺で黒板消しを叩きだした。が、
「ああああーっ!」
再びカイリの咆哮。
「あ」
続いて教師の間抜けな声。
「冬峰ェ。お前が叫ぶから先生、黒板消しを落としてしまったぞ……!」
「け、検定の『級』を『段』って書いちゃったあああっ!」
教師の文句を掻き消す絶叫。
一度はガクリと肩を落とすが、また次なる履歴書をビニール袋から取り出し、今日だけで大分インクの減ったボールペンを手にした。
―・―
「実は、野菜や肉よりもフルーツを食べ過ぎる方が太りやすいらしいな」
一人黙々と桃を片付けていたナツキに、アキが呟いた。
「おだまりっ。ならアキも食べたら?なくなんないでしょ」
「なくしたいのか」
ナツキは一瞬「しまった」という顔をしたが、また桃にフォークを刺しては口へ運ぶ作業を再開する。
あれだけあった桃は、いつの間にか残り少なくなっていた。
そこへ、
「できた!履歴書できたよ!先生、できましたっ!」
ガタン!と、音を上げ勢いよく椅子を倒して立ち上がるカイリ。
「ほう。どれどれ、渡してみ」
「はい!先生、もうわたしも桃食べてもいいですよね!」
「だぁめ。ちゃんと合格してからね」
「ぐぬぅ……」
カイリの乾いた呻き声が、オレンジ色に染まる美術室に響いた。
教師が履歴書を確認している間も、桃は着実にその数を減らして行った。
履歴書(練習用)を手に黙り込んだ教師を見て不安になったカイリは、痺れを切らして口火を切った。
「せ、先生……?」
「ん。よし」
「はいっ!桃食べても……じゃない、合格ですか?」
「うん。もう食べてもいいよ」
そう言った教師は、顔を硬直させるようにして微笑んだ。
「やったぁ!」
飛び上がり、即座に桃の乗った皿に走り寄る。
が、
「あと二つだけ……」
そう。アキとナツキが本気で飽きるまで食べた結果、桃は残り二切れになってしまっていた。
「あ……あとは食べてもいいよカイリ」
ナツキがひきつった笑顔で言った。
残り少ないにもほどがあるが、事を成し遂げた今のカイリにとっては、食べられるだけでありがたい。
「うん、食べるよ!ありがとう!」
目尻に涙を浮かべながらフォークを取り、丁重に桃の残り二つ切れを咀嚼した。
「じゃ、俺は帰る」
「私も帰るね」
と、アキにナツキ。
二人とも、桃が効いているのだろう。
見るからに重たそうに腰を上げ、カバンを方に掛ける。
「わたしも帰るー!」
カバンを手に跳ねるように教室を出、二人に追いつくカイリ。
だが、その肩をアキがつつく。
アキへと振り向いたカイリの目をじっと見、そして後ろ――美術室を振り返り、顎で中を指す。
教室の中では、教師が履歴書をヒラヒラと振り、カイリを手招きしていた。
「『~に挑戦し』の『挑』が『桃』に、『私も』が『私もも』になっているよ?冬峰ェ」
微笑んだ教師の顔を見たカイリは、力なくその場にへたりこんだ。
長く伸びたその影が、彼女の哀愁をより一層際立たせて見えた。
*****
「桃×ボールペン」でお送りしました、物語コミュ用短編第伍弾!
履歴書ってクソ面倒臭いよね。
今まさにその渦中にある私だからこそ書けた話ではないでしょうか!
ちなみにこの美術教師と生徒の関係は、高校時代の俺と美術教師のそれをモデルにしてます。
担任ではなかったけど、よく昼休みや放課後に美術室に遊びに行ったもんです。
ああ懐かしい!
青春の思い出に浸りながら書いた日常くせぇ短編でしたが、いかがでしょうか。
お口に合いましたでしょうか。
もし合わなかったのなら、、、
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