お正月SSの続き。
(1):http://fortysix046.blog.shinobi.jp/Entry/2599/
女の子の歩くペースに合わせて女の子の歩くペースに合わせて女の子の歩くペースに合わせて……。
男が車道側男が車道側男が車道側男が車道側……。
エイジの頭の中は真っ白……ではないが、わりと真っ白、ほとんど白い状態だった。
エイジはカイリに惚れている。いわゆる片想いというやつだ。
3年前のクリスマス、あのゲームセンターで出会ってからというもの、彼はカイリ以外に女性を意識したことはほとんどない。
当時の荒んだ精神状態(今にして思えばなんともガキ臭く大袈裟だが)があったからこそとはいえ、あの雪の日に見た彼女の姿はそれほどまでに強烈で、エイジの脳裏に深く焼きついていた。
実を言うと、高校での3年間を同じクラスで、同じ教室で過ごしているにも関わらず、カイリと二人きりというシチュエーションになったことはほとんどない。
エイジにとってリアル天使と言ってもまったく過言ではないカイリの周囲には、常に誰かがいるのだ。
それはナツキであったり、アキであったり、他の女子であったりする。
交友関係の広いエイジでも名も知らないような男子に囲まれていたり、後輩にアタックされていることもある。
カイリにとり、ただの男友達の一人にすぎないであろうエイジがつけ入る隙など、カイリは無自覚にも関わらずほとんどないのだ。
そんなわけで、思ってもいないこの二人きりで初詣に、というシチュエーションに胸を踊らせざるを得なかった。
いや、胸を踊らせるというと語弊がある。エイジの心音はさっきからバクバクと異常な高まりを見せており、完全に彼の制御下を離れている。
このまま心臓が爆発して死んでしまうのではないかと危惧もしたが、その時が訪れる気配は一向にない。
せっかくの二人きりの時間。話したいことはいつも山ほどあるはずなのだが、どれも胸の高鳴りに掻き回され出てこない。
アキ宅玄関先で新年の挨拶をして、二人で初詣に行こうかと意気投合してから既に5分ほど、二人は何も喋らないでいた。
それでもカイリは上機嫌な様子で、何か歌を口ずさみながら弾むように歩いている。
その歌詞が「恋に恋焦がれ恋に泣く」なのはカイリの心中を表してわざわざはいないだりう。わりといつも口ずさんでいる、カイリのお気に入りの曲だ。
初めて出会った時から随分と短くなったが、白金の髪は相変わらず綺麗なままだ。
それをふわふわと揺らしながら歩いている姿を見ているだけで、言葉なんて必要ないのではないか、とも思う。
おそらく、間がもたないなどと考えているのはエイジ一人だけで、カイリは二人で並び立って歩いているだけでも楽しいと感じているはずだ。
それはそれで嬉しいし助かるが、同時に少し寂しくもあった。
何か会話を……と、口が動くままに任せて何か言おうと思った瞬間、カイリの「あっ」という声に妨げられた。
「どどっどうしたの!?」
あまりに予期せぬ不意打ちにどもってしまった。
「そういえばエイジくん、どうしてアキん家にきたの?」
カイリはエイジの間抜けな声もまったく気にしない様子で問うてきた。
「そ、それは……」
「それは?」
「アキに『初詣行くぞエイジ』って誘われたんだけどさ」
携帯電話でメールを表示し、カイリに示した。そのままの文章が簡潔に、何の装飾もなく、件名に書かれている。本文は無しだ。
「あれ? でもアキ、誰かに誘われて初詣に行っちゃってたよね」
カイリが頭上に疑問符を浮かべた。ような気がした。
「んー……まあ、あいつのことだからなぁ。『気が変わった』とか言って他の人と行っても全然不思議じゃないし」
「あははー、たしかにね……」
カイリは苦笑いで応じた。
幼なじみの気まぐれな行動には馴れているのだろう。エイジも、カイリほど長い時間を過ごしてはいないが、もう慣れた。最近では怒りも呆れもせず、しゃーねーなぁで済ませてしまえる程度には寛容になれた。
だが、今回の気まぐれに関してはアキナイス!と内心ガッツポーズしていた。
おそらくカイリがアキを初詣に誘うのは毎年恒例なのだろう。幼なじみの行動パターンを予測したアキが、カイリと出くわすようエイジに仕向けてくれたのかもしれない。
エイジの秘めた想いをアキに話したことはないが、どうせ筒抜けだろう。今更話したところで、超然とした態度で「何を今更。あれでわからない方がおかしい」 とか言われるのだろう。
そんなエイジの淡い想いを汲んだアキが、誰かは知らないが友人に迎えに来るよう連絡し、気まぐれを装って出掛けたのかもしれない。
これは、普段俺につらく当たるアキからの……お年玉!
エイジはそう解釈した。
持つべき者は……親友だ!
などと考えているうちに、鳥居が視界に入ってきた。その向こうに見える石段は長く、ところどころ苔むしている。
アキの談によれば、階段の左右に鬱蒼と繁る林は、近所の小学生たちの秘密基地建築競争が絶えない人気スポットらしい。
「着いた!」
「うん、着いたね」
言いながら、エイジは一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。二人きりの幸せな時間がもう半分も終わってしまった。帰りになんとか、どこかで時間を稼げないものか……などと考えながら、石段を二人で登った。前を行くカイリはダッフルコートを着込み、マフラーをぐるぐる巻きにし、手にはミトンと、完全防護の呈だった。そんな魔法が何かのゲームにあった気がする。あれも唱えるとこんな具合にモコモコになるんだ。
一方、脚はいつものレギンスにモフモフのついたブーツと防寒という見地からするとやや心許ない装備だった。レギンスで脚の細さが際立ち、同時に上半身の異様さも引き立たせていた。
その「逆ドム体型」とでも言うべき後ろ姿に愛らしさを感じはじめたところで、苔むした石段が終わりを告げ、視界が開けた。
同時に目前に馴染みの顔が現れた。
長い黒髪を真ん中で分け、眼鏡をかけた女子……時雨ナツキ。
その隣に、線の細い美形のアキとは逆のベクトルで男前なエイジの悪友、牧島レンが青い顔で付き添っていた。
その少し向こうには、アキが「やれやれ」といった顔で突っ立っている。
何かワケアリらしい三人は、各々のタイミングでエイジたちに気づくと、各々のテンションで新年の挨拶を交わした。
ナツキはどこか怒気を孕んだ声、レンは見るからにどんよりと沈んだ、普段の覇気や男気など見る影もない声。
アキはいつも通り……よりも若干呆れ気味なのだろうか。いつものことだが気だるげで、あまりめでたくはなさそうな声だった。
エイジは三人の様子を理解できず、「あ、あけまして、おめでとう」と面食らい気味に。
いつも良くも悪くもあまり空気を読まないカイリの「あけましておめでとーう!」だけが、元気よく、しかしどこかむなしく、神社の穏やかな空気を震わせた。
TO BE CONTINUED → http://fortysix046.blog.shinobi.jp/Entry/2602/
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女の子の歩くペースに合わせて女の子の歩くペースに合わせて女の子の歩くペースに合わせて……。
男が車道側男が車道側男が車道側男が車道側……。
エイジの頭の中は真っ白……ではないが、わりと真っ白、ほとんど白い状態だった。
エイジはカイリに惚れている。いわゆる片想いというやつだ。
3年前のクリスマス、あのゲームセンターで出会ってからというもの、彼はカイリ以外に女性を意識したことはほとんどない。
当時の荒んだ精神状態(今にして思えばなんともガキ臭く大袈裟だが)があったからこそとはいえ、あの雪の日に見た彼女の姿はそれほどまでに強烈で、エイジの脳裏に深く焼きついていた。
実を言うと、高校での3年間を同じクラスで、同じ教室で過ごしているにも関わらず、カイリと二人きりというシチュエーションになったことはほとんどない。
エイジにとってリアル天使と言ってもまったく過言ではないカイリの周囲には、常に誰かがいるのだ。
それはナツキであったり、アキであったり、他の女子であったりする。
交友関係の広いエイジでも名も知らないような男子に囲まれていたり、後輩にアタックされていることもある。
カイリにとり、ただの男友達の一人にすぎないであろうエイジがつけ入る隙など、カイリは無自覚にも関わらずほとんどないのだ。
そんなわけで、思ってもいないこの二人きりで初詣に、というシチュエーションに胸を踊らせざるを得なかった。
いや、胸を踊らせるというと語弊がある。エイジの心音はさっきからバクバクと異常な高まりを見せており、完全に彼の制御下を離れている。
このまま心臓が爆発して死んでしまうのではないかと危惧もしたが、その時が訪れる気配は一向にない。
せっかくの二人きりの時間。話したいことはいつも山ほどあるはずなのだが、どれも胸の高鳴りに掻き回され出てこない。
アキ宅玄関先で新年の挨拶をして、二人で初詣に行こうかと意気投合してから既に5分ほど、二人は何も喋らないでいた。
それでもカイリは上機嫌な様子で、何か歌を口ずさみながら弾むように歩いている。
その歌詞が「恋に恋焦がれ恋に泣く」なのはカイリの心中を表してわざわざはいないだりう。わりといつも口ずさんでいる、カイリのお気に入りの曲だ。
初めて出会った時から随分と短くなったが、白金の髪は相変わらず綺麗なままだ。
それをふわふわと揺らしながら歩いている姿を見ているだけで、言葉なんて必要ないのではないか、とも思う。
おそらく、間がもたないなどと考えているのはエイジ一人だけで、カイリは二人で並び立って歩いているだけでも楽しいと感じているはずだ。
それはそれで嬉しいし助かるが、同時に少し寂しくもあった。
何か会話を……と、口が動くままに任せて何か言おうと思った瞬間、カイリの「あっ」という声に妨げられた。
「どどっどうしたの!?」
あまりに予期せぬ不意打ちにどもってしまった。
「そういえばエイジくん、どうしてアキん家にきたの?」
カイリはエイジの間抜けな声もまったく気にしない様子で問うてきた。
「そ、それは……」
「それは?」
「アキに『初詣行くぞエイジ』って誘われたんだけどさ」
携帯電話でメールを表示し、カイリに示した。そのままの文章が簡潔に、何の装飾もなく、件名に書かれている。本文は無しだ。
「あれ? でもアキ、誰かに誘われて初詣に行っちゃってたよね」
カイリが頭上に疑問符を浮かべた。ような気がした。
「んー……まあ、あいつのことだからなぁ。『気が変わった』とか言って他の人と行っても全然不思議じゃないし」
「あははー、たしかにね……」
カイリは苦笑いで応じた。
幼なじみの気まぐれな行動には馴れているのだろう。エイジも、カイリほど長い時間を過ごしてはいないが、もう慣れた。最近では怒りも呆れもせず、しゃーねーなぁで済ませてしまえる程度には寛容になれた。
だが、今回の気まぐれに関してはアキナイス!と内心ガッツポーズしていた。
おそらくカイリがアキを初詣に誘うのは毎年恒例なのだろう。幼なじみの行動パターンを予測したアキが、カイリと出くわすようエイジに仕向けてくれたのかもしれない。
エイジの秘めた想いをアキに話したことはないが、どうせ筒抜けだろう。今更話したところで、超然とした態度で「何を今更。あれでわからない方がおかしい」 とか言われるのだろう。
そんなエイジの淡い想いを汲んだアキが、誰かは知らないが友人に迎えに来るよう連絡し、気まぐれを装って出掛けたのかもしれない。
これは、普段俺につらく当たるアキからの……お年玉!
エイジはそう解釈した。
持つべき者は……親友だ!
などと考えているうちに、鳥居が視界に入ってきた。その向こうに見える石段は長く、ところどころ苔むしている。
アキの談によれば、階段の左右に鬱蒼と繁る林は、近所の小学生たちの秘密基地建築競争が絶えない人気スポットらしい。
「着いた!」
「うん、着いたね」
言いながら、エイジは一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。二人きりの幸せな時間がもう半分も終わってしまった。帰りになんとか、どこかで時間を稼げないものか……などと考えながら、石段を二人で登った。前を行くカイリはダッフルコートを着込み、マフラーをぐるぐる巻きにし、手にはミトンと、完全防護の呈だった。そんな魔法が何かのゲームにあった気がする。あれも唱えるとこんな具合にモコモコになるんだ。
一方、脚はいつものレギンスにモフモフのついたブーツと防寒という見地からするとやや心許ない装備だった。レギンスで脚の細さが際立ち、同時に上半身の異様さも引き立たせていた。
その「逆ドム体型」とでも言うべき後ろ姿に愛らしさを感じはじめたところで、苔むした石段が終わりを告げ、視界が開けた。
同時に目前に馴染みの顔が現れた。
長い黒髪を真ん中で分け、眼鏡をかけた女子……時雨ナツキ。
その隣に、線の細い美形のアキとは逆のベクトルで男前なエイジの悪友、牧島レンが青い顔で付き添っていた。
その少し向こうには、アキが「やれやれ」といった顔で突っ立っている。
何かワケアリらしい三人は、各々のタイミングでエイジたちに気づくと、各々のテンションで新年の挨拶を交わした。
ナツキはどこか怒気を孕んだ声、レンは見るからにどんよりと沈んだ、普段の覇気や男気など見る影もない声。
アキはいつも通り……よりも若干呆れ気味なのだろうか。いつものことだが気だるげで、あまりめでたくはなさそうな声だった。
エイジは三人の様子を理解できず、「あ、あけまして、おめでとう」と面食らい気味に。
いつも良くも悪くもあまり空気を読まないカイリの「あけましておめでとーう!」だけが、元気よく、しかしどこかむなしく、神社の穏やかな空気を震わせた。
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